米空母派遣　対北けん制…トランプ政権　「あらゆる選択肢」

読売新聞：2017年4月11日5時0分

米海軍の原子力空母「カールビンソン」（２０１１年５月、マニラ沖で）＝ＡＦＰ時事

　米太平洋艦隊は８日（米時間）、原子力空母「カールビンソン」を西太平洋の北部海域

に派遣すると発表した。トランプ米政権は、化学兵器の使用が疑われるシリアへの攻撃に

続き、核・ミサイル開発を進める北朝鮮への圧力強化に動き始めており、日本などの関係

国にも理解を求めている。

【ワシントン＝大木聖馬】カールビンソンは寄港先のシンガポールを出て、現在は南シナ

海を北上している模様だ。イージスシステムを搭載したミサイル駆逐艦２隻や、ミサイル

巡洋艦１隻などを伴って行動している。当初はオーストラリアに向かう予定だったが、

８日の出港後、ハリー・ハリス太平洋軍司令官の指示で行き先を変更した。

　最終目的地が朝鮮半島からどの程度の距離にあるかなど、詳細は明らかにされていない。米ＡＢＣテレビは米政府当局者の話として、カールビンソンが朝鮮半島東側の日本海に向かっていると伝えた。

　複数の米国防当局者は、米海軍情報に詳しい専門紙ネイビー・タイムズ（電子版）に対

し、「（カールビンソン派遣は）北朝鮮に対するメッセージだ」と語ったという。米第７

艦隊によると、米西海岸のサンディエゴ基地からも、ミサイル駆逐艦２隻が西太平洋に向

かっている。カールビンソンなどと合流するとみられる。

　これに関連し、マクマスター米大統領補佐官（国家安全保障担当）は９日放送のＦＯＸ

ニュースのインタビューで「トランプ大統領は、米国民や同盟国などへの脅威を取り除く

ため、あらゆる選択肢を準備するよう指示した」と述べ、軍事行動も辞さない構えを示唆

して北朝鮮をけん制した。

日米外相が会談　韓国含め連携へ

【ルッカ（イタリア中部）＝岡田遼介】岸田外相は１０日午前（日本時間１０日夕）、先

進７か国（Ｇ７）外相会合に先立ち、ティラーソン米国務長官とイタリア・ルッカ近郊で

約３０分間会談した。対北朝鮮では、日米両国が中国に対し「大きな役割」を果たすよう

働きかけることで一致した。

　ティラーソン氏は北朝鮮問題について、米中首脳会談での協議内容を説明し、「北朝鮮

に対する米国の考え方、立場に変わりはない。同盟国の防衛に対する米国のコミットメン

ト（関与）は揺るぎない」と表明した。

　岸田氏は「（軍事的手段を含む）全ての選択肢がテーブルの上にあるとの米国の姿勢を

評価する」と伝えた。両外相は日米韓３か国の連携を確認し、「中国の役割が極めて重要」

との認識で一致した。

　米軍のシリア攻撃については、岸田氏が「化学兵器の拡散と使用を抑止するために責任

を果たそうとする米国の決意を支持する」と伝えた。ティラーソン氏は「日本の明確な支

持の表明に感謝する」と応じ、Ｇ７外相会合後に自ら訪露することを説明し、「ロシアや

その他の関係国とも協力する」と語った。岸田氏も安倍首相の訪露予定を伝えた。

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米国のトランプ大統領が、米海軍の空母を朝鮮半島沖に派遣した。北朝鮮の核・ミサイ

ル開発への対応を巡り、中国の習近平シージンピン国家主席との首脳会談がすれ違いに終わったことを

受けた措置とみられる。米国の抑止力を期待する日韓両国は歓迎するが、北朝鮮の

金正恩キムジョンウン政権の暴発を懸念する声もある。（ワシントン　大木聖馬）

北に針路

  「西太平洋を北に向かって航行せよ」

　寄港先のシンガポールを出てオーストラリアへと航行していた米原子力空母「カールビ

ンソン」は８日、ハリー・ハリス太平洋軍司令官の命令を受け、急きょかじを北に切り替

えた。

　北朝鮮では１１日、国会にあたる最高人民会議が予定され、１５日には金日成キムイルソン主席の誕

生日「太陽節」を迎える。国威発揚を狙った挑発行動に再び出る可能性がある。弾道ミサ

イルの発射や、すでに準備が整ったとの見方もある核実験などが懸念されている。

　トランプ氏は、緊張が高まる前に空母の展開で北朝鮮への攻撃力を見せつけ、暴挙を抑

止しようとしたとみられる。

《中国見切り？》

６～７日に米フロリダ州で行われた米中首脳会談では、北朝鮮問題が集中的に議論され

た。金正恩政権が、米本土まで届く大陸間弾道弾（ＩＣＢＭ）の開発に成功すれば、トラ

ンプ氏にとっても人ごとではなくなるためだ。しかし、習氏は米朝双方に自制を求め、有

効な解決策を見つけられぬまま終わった。

　その直後の米国による空母派遣について、外交筋は「トランプ政権が（中国に見切りを

つけ）軍事的圧力に軌道修正したサインではないか」と指摘する。

　習氏の訪米中に行われたトランプ政権の対シリア攻撃も、「北朝鮮への警告」を兼ねて

いた。

　「国際規範や国際的な合意に違反し、他国の脅威になるなら、対抗措置を取る可能性が

あるというメッセージだ」

　ティラーソン米国務長官は９日の米ＡＢＣニュースで、そう意図を明かした。

　米国には、空母派遣で他国の威嚇行為を封じ込めた成功体験がある。１９９６年の台湾

海峡危機で、米軍は空母２隻を海峡付近に派遣し、中国によるミサイル演習などをやめさ

せた。

《対話の道も》

　ホワイトハウス関係者によると、米太平洋軍は空爆の模擬演習を複数回実施するなど、

北朝鮮への軍事措置を念頭にした訓練も始めているという。カールビンソンは、精密誘導

弾を装着できる戦闘攻撃機「ＦＡ１８スーパーホーネット」など約９０機の航空機を搭載

している。米西海岸から出航したミサイル駆逐艦２隻も、近く合流する予定だ。

　トランプ政権が対北政策の見直しに伴い検討している選択肢には、空母から飛び立った

戦闘機による攻撃や、駆逐艦からのミサイル発射などが含まれるとされる。旧式レーダー

しか持たず、防空能力の低い北朝鮮が空爆を受ければ、壊滅的ダメージは避けられない。

　ただ、米国は当面、中国を通じた経済制裁の強化などを組み合わせつつ、北朝鮮から譲

歩を引き出す戦略を取るとみられる。日韓両国とは緊密に連携し、慎重に対応する構えだ。

　ティラーソン氏は同ニュースで、こうも付け加えた。

　「北朝鮮があらゆる実験をやめれば、対話を考え始めることができる」

日韓　圧力強化を歓迎…軍事行動には懸念

　日韓両政府は米国のトランプ政権による北朝鮮への圧力強化を歓迎している。

　《期待の声》

  菅官房長官は１０日の記者会見で、米空母の朝鮮半島近海への派遣に関連し、「地域の

安全保障環境が厳しさを増す中、米国の抑止力を確保することが重要だ」と指摘。韓国国

防省報道官も１０日の記者会見で、「核実験やミサイル発射の可能性が高まっている朝鮮

半島情勢の厳しさを認識したものだ」と評価した。

　トランプ政権は、北朝鮮が非核化に向けた具体的な行動をしない限り対話に応じないと

するオバマ前政権の「戦略的忍耐」政策の見直しを進め、「あらゆる選択肢が机上にある」

として軍事的手段も排除しない姿勢を示している。日韓両政府はこれを肯定的にとらえて

いる。北朝鮮が核・ミサイル開発を続け、技術を向上させてきた現実があるためだ。北朝

鮮は金正恩キムジョンウン朝鮮労働党委員長が指示すれば、いつでも長距離弾道ミサイルの発射や６回

目の核実験が可能な状態にあるとされ、日本政府内には「一定の抑止効果がある」（防衛

省幹部）と期待する声がある。

　《報復リスク》

　ただ、米軍が北朝鮮への軍事行動に踏み切った場合、北朝鮮から近い日韓両国のリスク

は、米国と比較にならないほど大きい。

　北朝鮮は、日本のほぼ全域を射程に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」

（射程１３００キロ）を約３００発実戦配備しているほか、南北軍事境界線付近には、ソ

ウルを射程に入れたロケット砲が展開している。

　日本の現在のミサイル防衛システムでは、同時に多数のミサイルが発射されれば全て迎

撃するのは難しいとされる。軍事境界線から数十キロしか離れていないソウルはロケット

弾の集中攻撃を受ける恐れがある。日韓両政府は「最終的には対話での解決を目指す基本

線を崩すべきではない」との認識で一致し、北朝鮮への軍事行動に慎重な立場だ。

　両国にとって最も望ましいシナリオは、米国の圧力で対話の機運が生まれ、北朝鮮の核

問題をめぐる６か国協議の再開につながることだが、北朝鮮は「６か国協議は死んだ」と

断言、再開の見通しは一切立っていない。

（政治部　仲川高志、ソウル支局　宮崎健雄）

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