南北協力米が懸念:鉄道・道路連結「国連制裁違反」
南北協力米が懸念:鉄道・道路連結「国連制裁違反」
朝日新聞:2018年9月22日05時00分
南北と米国の関係
19日の南北首脳会談で、年内に日本海、黄海側の鉄道・道路連結の着工式を行うことで合意したことが、波紋を呼んでいる。
米政府には、こうした経済協力は国連制裁違反になるとの懸念が根強い。このため、複数の米韓関係筋によると、年内は着工式だけにとどめ、終戦宣言や非核化で進展があることを見込んで来年の事業開始を目指すとの認識だという。
米韓関係筋によると、南北首脳会談で、経済難に苦しむ北朝鮮は韓国に、鉄道と道路連結事業の開始を強く求めたという。
一方で、韓国側は「建設資材を北朝鮮に持ち込めば国連制裁決議違反になる」と説明。韓国側は「年内に朝鮮戦争の終戦宣言を実現すれば、米朝関係の改善や制裁緩和が見込め、来年には事業が可能」と持ちかけたという。
トランプ米大統領は南北会談後、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が核実験場やミサイル発射台の廃棄に触れたことなどを「とても良いニュース」と評価。ポンペオ国務長官も声明で南北会談を評価し、非核化を巡る米朝協議を進めることを北朝鮮側に呼びかけた。
しかし米政府は、道路と鉄道連結などの南北の経済協力については、国連制裁違反につながる可能性があるとし、外交ルートで真意を問い合わせた。韓国側は「国連制裁に違反する行動は取らない」と答えるにとどめたという。
文在寅(ムンジェイン)韓国大統領は北朝鮮から帰国後の20日の記者会見で終戦宣言の年内実現に強い意欲を示したが、実際は協議は進展していない。米国は北朝鮮に非核化対象リストや行程表の申告やその検証措置を求めているが、北朝鮮が応じていないためだ。
北朝鮮は米国の核問題への関心をつなぎとめる意味合いもあり、「寧辺(ヨンビョン)核施設の条件付き廃棄」などの追加措置を平壌共同宣言に盛り込んだとみられる。
韓国と北朝鮮が19日、軍事分野合意書も結んだのも、終戦宣言を実現させる環境を整える思惑がある。
韓国大統領府の尹永燦(ユンヨンチャン)首席秘書官(広報担当)は同日の記者会見で、一連の合意を「実質的な終戦宣言」と評価した。
ただ、軍事分野合意書は韓国大統領府主導で進められたため、韓国国防省とやり取りしていた米国は、事前に合意
書の詳細を知らされていなかったという。
韓国の軍事専門家の間では、飛行禁止区域の設定によって米軍の偵察活動に影響が出るなど、米韓の抑止力が低下するとの指摘が出ている。
文氏は年内に正恩氏がソウルを訪問することでも合意した。専門家の間では、文政権はこの際にトランプ氏も招いて3カ国による終戦宣言の宣布を狙っているとの見方も出始めている。
(ソウル=牧野愛博)
◇
韓国の宋永武(ソンヨンム)国防相が21日に退任し、鄭景斗(チョンギョンドゥ)韓国軍合同参謀本部議長が同日午後、新たな国防相に就任した。鄭氏は就任のあいさつで、「(19日の)平壌共同宣言を通じて、軍事分野合意書に続く措置を積極的に推進すべきだ」と語った。
(ソウル)