正恩氏、驚きの表情…拉致を「核」より先に提起
正恩氏、驚きの表情…拉致を「核」より先に提起
読売新聞:2019:3・05
[読者会員限定]•米朝首脳会談 トランプ氏、首相要望で
2月27〜28日の米朝首脳会談で、トランプ米大統領が北朝鮮のキムジョンウン朝鮮労働党委員長に日本人拉致問題を提起したのは、初日に行われた1対1の会談の冒頭だったことがわかった。
複数の日本政府関係者が明らかにした。
安倍首相は2月20日のトランプ氏との電話会談で、拉致問題を正恩氏に提起するよう要請した。トランプ氏の発言は、これに配慮したものとみられる。正恩氏は核・ミサイル問題が最初の議題と想定していたのか、その場で「驚いた表情」を見せたという。
トランプ氏は1対1の会談に続き、27日の夕食会でも拉致問題を取り上げた。日本政府は「首相の注文通り」(関係者)と歓迎している。政府は日米連携をテコに日朝の首脳による直接対話につなげ、拉致問題を打開したい考えだ。
◇
トランプ氏と正恩氏、初日の夕食会から対立か
読売新聞:2019/03/04 18:42
[読者会員限定]•米朝首脳会談
【ワシントン=花田吉雄】米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は2日、複数の交渉参加者の話として、ハノイで行われた米朝首脳会談の舞台裏を報じた。
北朝鮮の非核化の具体策と経済制裁の解除を巡り、2月27日の初日の夕食会の時点でトランプ米大統領とキムジョンウン朝鮮労働党委員長の意見が対立していたという。
同紙によると、正恩氏は夕食会で、核開発の主要拠点であるヨンビョンの核施設の廃棄と引き換えに、2016年以降に実施された国連の制裁のうち5件の解除を主張した。
一方、トランプ氏は全ての核兵器、核物質、施設の廃棄を制裁解除の条件とすると提案。すると正恩氏は、核の全面廃棄に踏み切れるほど米朝間の信頼関係は十分ではないと異議を唱えたという。
米国側の交渉参加者の中では、北朝鮮が核の完全な廃棄に応じる可能性はほぼないと考え、会談の実施に懐疑的な声が上がっていた。しかし、トランプ氏が交渉を成功させようと会談開催に踏み切ったとしている。
正恩氏も、寧辺の核施設の廃棄を提案すればトランプ氏が制裁解除に応じると踏んでいた模様で、同紙は正恩氏にも誤算があったと分析している。
------------------------------------------------------------------------------------
[インタビュー米朝]北、米の姿勢読み違え
読売新聞:2019:3・05 •米朝首脳会談
シン・ギウク 朝鮮半島情勢に詳しい。1月末には米朝交渉を担う米国のスティーブン・ビーガン北朝鮮担当特別代表をスタンフォード大学に招聘(しょうへい)し、シンポジウムを開いた。
シン・ギウク 朝鮮半島情勢に詳しい。1月末には米朝交渉を担う米国
のスティーブン・ビーガン北朝鮮担当特別代表をスタンフォード大学に
招聘(しょうへい)し、シンポジウムを開いた。
------------------------------------------------
◇スタンフォード大学アジア太平洋研究センター長 申起旭氏
トランプ米大統領は予定していた共同声明の署名を行わず、世界を驚かせた。だが、交渉テーブルから立ち去ることは一般的な外交戦術だ。米国が再び軍事的圧力を高めることはなく、交渉は決裂していない。実務者レベルで遅かれ早かれ再開されるだろう。
そもそも複雑な核問題をすぐに解決できると考えるには無理がある。非核化を具体的に進めるには、10年単位のプロセスが必要だ。短期的な成果を急ぐより、米朝が互いの相違点を浮き彫りにし、主張が明確になったことに今回の首脳会談の意義がある。
将来の交渉を妨げかねない非現実的な合意を急ぐよりも、入り口段階で可能な限り、お互いの立場を整理した方が得策だったといえる。
今回の交渉では、トランプ氏が一枚上手だった。北朝鮮は、米国側が成果を焦っていると読み違えた。北西部・ヨンビョンの核施設廃棄だけで、経済制裁の全面解除が得られると計算違いをした。米国は北朝鮮が明らかにしていない施設も把握しているだろうし、キムジョンウン朝鮮労働党委員長はその他の施設をどうするか、回答の準備が不十分だったのだろう。
北朝鮮が、核施設などを完全に申告しないのは、米国を信用できないからだ。ただ、正恩氏にとって、交渉相手となり得るのは当面、トランプ氏しかいない。外交上の意思決定は通常ボトムアップだが、トランプ氏はトップダウンだ。
前提条件なしに北朝鮮との会談を受け入れた唯一の大統領であり、米国の従来方針とは異なる。正恩氏もトランプ氏以外では、対話が続かないことを理解している。
今後の実務者協議が整えば、再度首脳会談が開かれる可能性はある。うまくいけば今年秋頃には開けるかもしれない。ただ、北朝鮮側が新たなカードを切ることが前提条件になる。
北朝鮮にとって、態度を硬化させて核実験やミサイル発射を繰り返すのは現実的ではない。正恩氏はトランプ氏が設定した交渉の場から逃げ出すことが難しい状態になっている。(聞き手・ロサンゼルス支局 久保庭総一郎)
----------------------------------------------------------------------------------
「緊張緩和」と「節約」 韓国と大規模演習終了、米の思惑は
有料記事 朝日新聞:2019年3月5日05時00分
米韓両政府は2日(日本時間3日)、毎春行ってきた大規模な米韓合同軍事演習を終了し、規模を縮小した別の演習に切り替えると発表した。
北朝鮮の非核化に向けた「外交努力を支援する」と米側は説明するが、トランプ米大統領には演習は米国にとって無駄なコストであり、やめたいとの本音が見え隠れする。
演習の縮小は、日本を含む東アジアの安全保障にも無縁ではない。(園田耕司=ワシントン、牧野愛博=ソウル、藤原慎一)
米国のシャナハン国防長官代行と韓国の鄭景斗(チョンギョンドゥ)国防相が、電話協議で演習終了を確認した。米国防総省は2日の声明で、「(北朝鮮との)緊張を緩和し、朝鮮半島の完全な非核化を実現するための外交努力を支援する」と説明。
2月末の米朝首脳会談では非核化の交渉が決裂したが、米政権として交渉は継続するメッセージを送ったとみられる。
終了するのは、北朝鮮との全面戦争を想定した野外機動演習「フォール・イーグル」と、コンピューターを使う図上演習「キー・リゾルブ」。年によって規模は異なるが、米軍から約2万人、韓国軍から約30万人が参加してきた。
米韓の合同軍事演習としては最大規模で、反発する北朝鮮が対抗措置としてミサイル発射などで挑発行動に出るなど、演習の時期には軍事的緊張が高まってきた。
演習終了の判断は、コスト面から後ろ向きな姿勢をみせるトランプ氏の意向が大きい。トランプ氏は3日、ツイッターに「私が韓国と軍事演習をやりたくない理由は、(韓国から)米国に返済されていない数億ドル(数百億円)を節約するためだ」と投稿。一方で北朝鮮に対しては「現在、緊張緩和が進んでいることは良いことだ!」と融和姿勢を示した。
金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長らを狙う図上演習が取りやめとなることも分かった。韓国の軍事関係筋が4日、明らかにした。
この関係筋によると、キー・リゾルブは名称を「同盟」に変え、例年2週間ほどだった期間を9日間に短縮するという。図上演習は、北朝鮮軍の攻撃を食い止める「防衛」と、北朝鮮軍の攻撃能力がなくなった後、北朝鮮の正恩氏を含む体制の心臓部を攻撃したり、核を含む大量破壊兵器を除去したりする「反撃」の部門に分かれているとされる。今回の演習は防衛部門だけとし、反撃部門は行わない方針だという。
また、フォール・イーグルは廃止され、代わりに15日ごろから約1カ月間、局地戦に備える規模に縮小する方針としている。北朝鮮の労働新聞(電子版)は2月25日付の論評で、米海軍の揚陸指揮艦が釜山に寄港したとして「南朝鮮(韓国)での武力増強と軍事演習は、朝米関係と南北関係改善の流れに反する危険な動きだ」と批判していた。
■即応力の低下懸念
米国の安全保障専門家の間では、軍事演習の縮小や中止で、米韓合同の即応戦闘能力が訓練不足で低下するという懸念が強い。
韓国の軍事関係筋によれば、米韓演習の縮小に伴い、少なくともトランプ米政権下では、原子力空母や戦略爆撃機などの朝鮮半島派遣の回数が減ると韓国軍は予測しているという。
金熙相(キムヒサン)・元韓国大統領国防補佐官は「合同演習は、同盟軍の基本任務。演習縮小は韓米同盟の弱体化を意味する。今後は日米同盟の負担が大きくなるだろう」と指摘。韓国軍元将校は演習の縮小は「北朝鮮を喜ばせるだけだ」と語る。
一方で、トランプ氏の狙いは在韓米軍の縮小・撤退にあるという見方もなかなか消え去らない。トランプ氏は米大統領選時に在韓米軍撤退をちらつかせ、就任後も在韓米軍の必要性に疑問を投げかける言動を繰り返してきた。
今回の首脳会談前には米政権内で朝鮮戦争の終結をうたう平和宣言が検討された経緯もあり、米朝交渉の行方次第では「なぜ在韓米軍が必要かという議論につながりかねない」(元米情報機関当局者)。
菅義偉官房長官は4日の記者会見で「米国は同盟国の防衛に対するコミットメント(責任)を維持するとの立場で、日米同盟のコミットメントは変わらないと理解している」と語った。
ただ、自衛隊幹部は「現状が長期化すれば、米韓軍の練度の低下は避けられないだろう」と指摘。防衛省幹部は「日本に対する北朝鮮の核やミサイルの脅威が残ったまま、米韓だけが北朝鮮への軍事的圧力を弱めることにつながりかねない」と危機感を募らせた。